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2005年7月31日 (日)

ハードワーク

ポリー・トインビー著 『ハードワーク』 東洋経済新報社

 イギリス人ジャーナリストである著者が、公営住宅に実際に住んで、イギリスの最低賃金レベルの職業に就いてその実態を紹介している。荒廃した公営住宅の様子や公営住宅入居者への貸付金制度が具体的に描かれている。公的サービスへの派遣労働を中心とした最低賃金レベルの仕事の実態やそこで働く人々が抱える問題点もよく分かる。通勤時間や通勤費用の存在が、労働市場を買手独占にしているため、生産性以下の賃金で働かざるを得ない人がいるという「最低賃金の経済学」の具体例をこの本は与えてくれる。生産性以下の範囲に最低賃金が設定されているならば、最低賃金の引き上げは雇用に悪影響を持たない。問題は、それがいくらかなのか、ということだ。実験で確かめることができないのが、経済学のつらいところである。経済学者が分析できるのは、意図せざる実験的な政策が行われた時だけだ。

 この本では、派遣労働が職場の連帯感や向上意欲をなくすことが指摘されている。もっともな話だが、直接雇いの正規社員への解雇制限が厳しいことが派遣労働の発展の原因の一つであることは経済学ではよく知られている。派遣労働を減らしていくためには、正規社員の雇用の不安定さが今よりも高まることへの覚悟が必要になる。

 実際に公営住宅に住み、最低賃金の仕事をするという著者のジャーナリスト魂に感銘。

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コメント

私は経験上どうしても参与観察による調査は警戒の目で見てしまうのですが、それはそれとして、この取材がイギリス国教会のイベントだというのは面白いと思いました。日本でいえば神社総庁が企画するようなものでしょう。彼我の宗教的風土の違いとその社会への影響を感じます。

投稿: 労務屋@保守おやじ | 2005年8月 3日 (水) 08時22分

労務屋さん、コメントありがとうございました。この本は、一部を除いて冷静に客観的に描いていると思いました。ジャーナリストとしての普段の自分がいかに恵まれているか、ということも素直に書いていて、好感がもてました。単に、経営者だけが悪いというのではなく、恵まれているグループに自分自身が入っているということを強く認識していることが特徴です。また、自分が代々中産階級の出身であり、最低賃金の世界は別世界に生きていて、これからもそうだろう、という強い認識をもっていることもイギリス人らしいと思います。その意味で、日本の多くの参与観察とは違うかな、と思います。もう一つ、付け加えると、日本の参与観察が対象としたのは、最低賃金よりも遙かに高い賃金の職種で、広域的に労働移動が可能な職種なのに対し、この本では最低賃金で労働移動が困難な主婦パートの仕事を対象としていることです。

投稿: 大竹 | 2005年8月 3日 (水) 09時02分

階級が固定されている社会だから宗教団体(のこうした活動)が必要なのかもしれない、などと考えています。最賃といえば、日本でも一部の労組などがときどき「最賃生活」などという実践をしていますね。これは現実に最賃レベルの仕事で働くのではなく、最賃で得られる収入だけだとどのくらいの生活水準が可能かを実験するというあまり意味のないものですが。余談で申し訳ありません。

投稿: 労務屋@保守おやじ | 2005年8月 4日 (木) 09時20分

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