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2005年10月 6日 (木)

なぜ選ぶたびに後悔するのか

『なぜ選ぶたびに後悔するのか -「選択の自由」の落とし穴-』
 バリー・シュワルツ著 瑞穂のりこ「訳」
ランダムハウス講談社 ISBN4-270-00038-4

労務屋さんが紹介されたので、私も以前ある研究会でお話したものをアップします。

経済学では、財や職の選択肢が増えれば増えるほど、好みに合った財の消費や職業選択が可能になるので、人々は幸福になると考えてきた。ところが、幸福度を様々な国で比較すると、豊かな国の人の方が幸福とは限らない。逆に、家族をもって個人的な自由が縛られているように見える人や宗教を信じていて宗教によって行動の制約を受けている人の方が、そういう縛りがない人々よりも平均的には幸福である。こうしたことは、基本的な経済学の想定と矛盾してしまう。

著者は、社会心理学者の立場から、心理学、経済学の様々な研究論文をもとに、選択肢が拡がった場合に、「最大化行動」をとっていて「後悔」する可能性の高い人は、不幸になることを説得的に示している。

「最大化行動」の対極に「満足化行動」というアカロフが提唱する“near rationarity”に似た行動様式を著者は提唱している。最大化行動を取るための様々なコストを考えて、相対的な基準ではなく、絶対的な基準を設定し、それを超えていると満足するという行動様式である。著者の研究によれば、満足化行動を取る人は比較的幸福な人が多く、最大化行動を取る人は不幸な人が多く、「うつ」とも関連あるのではないかと指摘している。最大化行動を取る人は、後で後悔したくないから常に最善の選択を心がけ、選択した後も、それが最善であったかチェックするという行動をとってしまう。それが不幸になる理由だ。

 著者は、人はだれでも特定の分野ではこだわりをもっており、最大化行動するが、全ての選択行動においてそうしたことをしていくと、選択の自由が増せばますほど、不幸になっていくと主張する。高卒者におけるフリーター率が職業高校よりも普通科高校で多いという事実や、「やりたいことをみつけろという大人からのプレッシャーがニートを引き起こす」という玄田氏の主張と、この本の著者の主張は一致しているように思える。

 著者自身の研究を背景に「満足化行動」を取りやすくするようなアドバイスを最終章でまとめられており、実用書としての側面ももっている。学問的な裏付けをもって書かれているにもかかわらず、一般書として十分に普通の人も読める優れた啓蒙書である。人々の転職行動や仕事の満足度を考える上でも有益である。

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コメント

TBありがとうございました。一応「一部労働研究者」とか書いてみたのですがバレバレですね(笑)。本当はキャリアデザインやダイバーシティとからめてきちんと考えてみたかったのですが、雑な感想になってしまい申し訳ありませんでした。ちなみに、八代尚宏・鈴木玲子(2005)『家計の改革と日本経済』日本経済新聞社がこの本をリファーしています。

投稿: 労務屋@保守おやじ | 2005年10月 8日 (土) 12時33分

コメントありがとうございます。しばらくブログを更新していなかったので、新作ではなく手持ちのネタがないかな、と思っていたら、労務屋さんがこの本を紹介していらしたので、以前書いたものを引っ張り出してきました。私の紹介は研究者相手に話しをしたときのものなので、ちょっと堅いですね。

投稿: 大竹 | 2005年10月 8日 (土) 12時41分

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