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2008年5月

2008年5月26日 (月)

ジェンダー経済格差

男女間格差の経済分析を10年以上続けてきた同志社大学教授の川口章氏が、『ジェンダー経済格差』を出版した。目次と概要は、ここ

序 章 ジェンダー経済格差とは何か:課題と分析方法 
第1章 ジェンダー経済格差は男女の適性の違いから生じるのか
第2章 なぜ企業は女性を差別するのか[]
第3章 なぜ企業は女性を差別するのか[]
第4章 現実は理論を支持しているのか 
第5章 ジェンダー経済格差を生み出すメカニズムは何か
第6章 なぜ日本の雇用制度のもとでは女性が活躍しにくいのか
第7章 結婚や出産によって賃金はどう変わるのか
第8章 男女が働きやすい職場とは
;第9章 革新的企業では女性が活躍しているのか
終 章 ワーク・ライフ・バランス社会実現をめざして

1章には、男女格差の原因として生物学的な議論も紹介されている。しかし、川口氏は、現実の日本の格差は、それで説明できるようなオーダーではないことから、それ以降の経済学的な理論分析、実証分析に進んでいく。どの章も非常に興味深いが、特に注目すべきなのは、第9章ではないだろうか。コーポレートガバナンスと女性の活躍の関連が実証的に分析されている。株主によるガバナンスは、労働者の敵のように思わることが多い。しかし、この章の分析によれば、株主のガバナンスが効いて、経営改革に取り組んでいるいる会社ほど、女性が活躍していることが示されている。こうした企業を後押しするためには、ワーク・ライフ・バランスの実態に関する情報公開を義務付けることが有効だという政策提言がされている。女性労働者は、株主ガバナンスによる資本の論理を歓迎すべきなのかもしれない。

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2008年5月24日 (土)

週刊東洋経済 5月31日号

5月26日(月)発売の『週刊東洋経済』(5月31日号)の「経済を見る眼」のコーナーに、「賃金規制が死亡率を上げる?」というエッセイを書きました。ご一読頂ければ幸いです。

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行動経済学の教科書

5月17日のエントリーで、行動経済学の一般向けの本を紹介しましたが、その際、最近、教科書も次々出版されていると書きました。この本この本がそうです。

 行動経済学の立場から「法と経済学」の分析も盛んに行われています。Nudgeを書いたSunstein教授が編集した"Behavioral Law & Economics"という本も出版されています。

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2008年5月23日 (金)

所得階級別物価上昇率

 5月21日のエントリーで、アメリカにおける所得階級別物価上昇率の研究を紹介した。その際、永濱利廣氏の比較的短期間における日本の分析を紹介して、「もっと長期の研究があれば」、と書いた。一橋大学経済研究所の北村行伸教授が分析していることを、日々一考ブログから知った。この論文(pdf)だ。
 北村教授の論文によれば、1986年から1994年くらいまでは、日本でもアメリカと同様、低所得者が購入する商品の物価上昇よりも高所得者が購入する商品の物価上昇率が高かった(正確に言うと北村論文では、支出階級別。ただし、ここでは単純化のため所得階級と同じように議論する)。しかし、1995年から99年にかけては、その関係が逆転し、高所得者が購入する商品の物価上昇率の方が、低所得者のそれよりも低くなっている。ところが、2000年から2005年にかけては、所得階級と明確な関連はなくなっている。強いていえば、中位所得層の物価上昇率が相対的に高かったと言える。年齢階級別の分析もある。こちらは、所得階級別よりも時期別の傾向の違いが大きい。
 いずれにせよ、日本では低所得層が購入する商品の価格が過去10年ほどは、それほど下がっていないということには変わりがない。

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2008年5月22日 (木)

「雇用社会の法と経済」重版決定

雇用社会の法と経済』の重版が決定したそうです。ご購入いただいた皆様、ありがとうございました。

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理系サラリーマン 専門家11人に「経済学」を聞く

ネットで公開されていたエンジニアの平林純さんと経済学者との対談が、本になりました。「理系サラリーマン 専門家11人に「経済学」を聞く!」(光文社)がそれです。私も対談をしています。
平林純さんと、大竹文雄、玄田有史、友野典男、松原隆一郎、小島寛之、奥村宏、西村和雄、森永卓郎、中島隆信、栗田啓子、中村達也という11人の経済学者の対談です。ご一読いただければ幸いです。

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2008年5月21日 (水)

実質所得格差

レヴィット教授が、Freakonomicsのブログで、興味深い論文を紹介している。アメリカの所得格差拡大は実質的にはそれほど大きくなかった、と主張しているシカゴ大学のChristian Broda教授とJohn Romalis教授の論文である。

 実質所得を計測する際、普通は消費者物価指数を使う。つまり、平均的な消費者が購入する商品の構成と量を固定しておいて、その商品を違う年に購入するといくらかかるようになるか、というのが消費者物価指数だ。

 しかし、購入する商品の構成は、人によって異なるので、本来なら、個人ごとに物価指数というのは、異なってくるはずだ。

 そこで、所得階層別に商品の購入パターンが異なることを前提に、所得階級別消費者物価指数を作ってみて、その消費者物価指数で所得階級別の実質所得を計算し、所得格差の変化を考えようというのが、論文の趣旨だ。その結果、アメリカでは、低所得者が購入する商品の価格は大きく下落したのに、高所得者が購入する商品の価格はそれほど下落していないことが示される。そうすると、低所得者の実質所得は大きく上昇したのに、高所得者の実質所得はそれほど上昇していないことになる。それで、見かけの所得格差の拡大ほどは、高所得者と低所得者の生活水準の格差は拡大していない、ということになる。低所得層の物価指数が下落したのは、グローバル化とウォル・マートのおかげだという。

 日本ではどうだろうか。第一生命研究所の永濱利廣氏が「低所得者を苦しめる物価の二極化」(短いバージョンはこちら)で似たような分析をしている。この結果は、アメリカの研究とは逆に、低所得層の消費者物価指数の方が、高所得層の物価指数よりも上昇していることを示している。もう少し長期の分析も知りたいところだ。

 この分析が正しければ、日本ではみかけの所得格差以上に、生活水準の格差が拡大していることになる。日本の消費者がグローバル化の恩恵を十分に得ていないことが、その原因だ。格差対策に、規制強化や反グローバル化を唱える人が多いが、逆に、そうした政策は、実質的な所得格差拡大をもたらすことになるのではないか。

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2008年5月20日 (火)

「小さく産んで・・・」は本当か?

日本では、「小さく産んで大きく育てる」ということがよく言われる。しかし、最近の多くの研究は、出生時の体重が、子供の将来の健康や社会的経済的地位に大きな影響を与えることを明らかにしている。たとえば、この研究この研究だ。Currie教授のこの論文にも健康を通じて格差が継承されることが示されている。それなのに、日本の平均出生体重は低下傾向が続いているらしい。日本人だけは、出生時の体重が将来に影響しない、という研究でもあるのだろうか。そうでないとすれば、将来の日本人の人的資産に影響を与える問題になるかもしれない。

 

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2008年5月18日 (日)

予測市場

予測市場の有効性を示し、その規制緩和を求める論文を、3人のノーベル賞経済学者を含むアメリカの有力な経済学者のグループが、SCIENCEに掲載した(FreaknomicsのWolfers教授の記事より)。日経サイエンス6月号にも、予測市場に関する記事が掲載されていて、世論調査よりもパフォーマンスがいいことが紹介されている。世論調査で、人々が本当のことを答えてくれているかどうかは誰にも分らない。予測市場なら自分の予想と異なる証券を買うことは損になるので、価格には人々の正直な予想が反映されやすくなる。日本でも予測市場の設立を検討してみてはどうだろうか。

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2008年5月17日 (土)

Predictably Irrational

"Predictably Irrational"は、MITのAriely教授による一般向けの行動経済学の本である。この本のCDもある。"Nudge"と同様、売上を伸ばすヒントも多く、実務的にも役に立つ。行動経済学の本は、一般向けから教科書まで、英文のものがつぎつぎと刊行されている。日本語でも最近出た『経済は感情で動く-はじめての行動経済学』(モッテルリーニ著)は、一般向けに書かれていて面白い。

これだけ行動経済学が注目されているのに、日本の大学で「行動経済学」という授業科目が開講されているところは少ない。大阪大学と名古屋商科大学くらいしかないのではないか。行動経済学に関心をもって、経済学部に入学してきた学生たちをがっかりさせないようにする必要がある。

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日本経済学会 ポスターセッション

 5月31日、6月1日の二日間、東北大学で日本経済学会春季大会が開催されます。「自信過剰が男性を競争させる」という論文をポスターセッションで、共著者の大学院生の水谷徳子さんが報告します(水谷徳子・奥平寛子・木成勇介・大竹文雄の共著)。
 この論文は、競争的賃金体系(トーナメント)と出来高払い賃金体系に関する選好に男女差があるか否かを経済実験の手法で分析したものです。ここで得られた結論の一つは、女性は女性だけのグループの中では自信過剰になり、男性はグループに女性がいると自信過剰になるというものです。男性は男性だけのグループだとそれほど自信過剰ではなくなります。自信過剰であれば、競争的賃金体系を選ぶ可能性が高くなります。詳細については、是非、ポスターセッション会場にお越しください。
 なお、この論文は、5月23日の関西労働研究会中之島センタービル29階)でも報告されます。

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2008年5月10日 (土)

長時間労働の行動経済学

『ハーバード・ビジネス・レビュー』6月号(5月10日発売)のOPINION欄に、「長時間労働の行動経済学」というエッセイを書いています。このエッセイは、4月4日に行われたRIETIのシンポジウム「労働市場改革-日本の働き方をいかに変えるか」で報告した内容をもとにしています。リンク先から、報告資料と映像が見られます。
ところで、『ハーバード・ビジネス・レビュー』のこの号は、女性労働を特集していて、先日の私の日経「経済教室」の記事とも関連があります。

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2008年5月 8日 (木)

格差とやる気

 バスケットボールやサッカーのプロ選手たちは、チーム内での年俸が相対的に低いと、年俸の絶対額が高くても、パフォーマンスが悪くなるという研究が発表された。スイスのFrey教授らの研究だ(Stumbling and Mumbling 経由)。この研究の意味することは、年俸格差の付け方が、チームの成績に影響するということだ。たとえば、誰か一人のスーパースターの年俸を上げすぎると、ほとんどの選手が平均以下の年俸になってしまう。そうすると、チーム全体の成績は下がってしまうのだ。
 日本のプロ野球のデータでも似たようなことは検証できるはずだ。誰か分析してはどうだろうか?
 高額年俸を払っているのに、どうも成績がぱっとしない球団の経営陣は必読かもしれない。

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2008年5月 7日 (水)

これからの規制の仕組みを考える

Thaler教授とSustein教授の新著、Nudge は行動経済学から規制の仕組みを提案している。規制によって行為そのものを禁止するのではなく、人々に非合理な行動をとらせないように、行動経済学の知見を生かして、情報の提供の仕方やデフォールトの設定について規制をすることを提唱している。消費者行政の在り方を考える上でも有益だし、企業の現場でも様々なミスを防ぐ仕組みを考えるヒントに溢れている。

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2008年5月 5日 (月)

なぜ残る男女間格差

5月5日の日本経済新聞『経済教室』に、「なぜ残る男女間格差」という研究紹介記事を書きました。男女間賃金格差に関する最近の実証研究と競争選好に関する男女差の経済実験を紹介しています。参考文献は、日経ネットPLUSで紹介しています。

競争選好に関する男女差の議論で、次のような誤解が多いのです。「女性でも男性よりも競争が好きな人が多い」、という反論です。そのとおりですが、ポイントは次の点です。どちらが競争好きな人が多いのか、同じ能力の男女を比べた場合、どちらが競争にチャレンジすることが多いのか、ということです。

能力が高い人は、特に競争が好きでなくても、競争にチャレンジしても勝つ可能性が高いので、結果的に能力が低い人よりも競争に挑戦するでしょう。同じ程度に優秀な人がいて、片方は昇進競争に挑戦して、もう片方は挑戦しないとき、挑戦しなかった人は決して昇進することができないし、その能力を十分には活かすことができない、ということです。

ただし、この分野の本格的な研究は、まだ始まったばかりですから、わかっていないことが非常に多いと思います。

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