タクシー接待
財務省、国土交通省、金融庁、農水省などの国家公務員が、深夜にタクシーに乗った際に、ビールや清涼飲料水、おつまみ等を受け取っていたことが、「タクシー接待」として問題にされている。確かに、褒められた話ではない。でも、この話と、接待による利益供与の話は、似ているようで少し違うのではないだろうか。接待や賄賂を受け取って、競争入札にせずに、随意契約で高い価格で発注すると、公費を無駄にすることになり、国民に迷惑を与える。
では、タクシー接待の場合は、国民はどのような損害を被っているのだろう。もし、国家公務員が、タクシー接待を受けることを目的に、深夜まで残業していたのなら、残業代とタクシー代の両方で、国民は被害を受けたことになる。
しかし、深夜まで残業することが、避けられない状況であれば、税金で賄われるタクシー代そのものは、国家公務員がタクシー接待を受けても受けなくても変わらない。運転手間の競争が、タクシー料金の値下げ競争にならず、ビールや清涼飲料水の提供という形で行われたのである。つまり、規制によってタクシー料金が値下げできないから、タクシーの運転手が実質的な値下げ競争を行ったのだ。タクシー料金がその分値下げされていたなら、国民負担は減ったはずだ。根本的な問題は、タクシーの料金規制にある。
昔、銀行の預金金利が規制されていたころ、預金すると銀行は様々な景品をくれたものだ。価格規制が歪んだサービス競争をもたらしているのであれば、そこを正すことを考えるべきではないか。「タクシー接待」を禁止したところで、私たち国民が得をするのだろうか。
問題の本質は、深夜まで働いてタクシーで帰らなければならない国家公務員の仕事環境そのものであり、タクシー業界の価格規制ではないだろうか。もちろん、深夜まで働く必要がないのにタクシーで帰るために残っているというのであれば、問題とされていい。批判の論点を明確にしないと、不毛な議論になる。
(追記) 遠距離割引の仕組みは地域によって異なる。大阪のタクシーは、5000円を超えると5割引き、東京のタクシーは9000円を超えると1割引きとなっている。もし、東京のタクシーが大阪並みの長距離割引をしていたならこういう問題は生じなかったのではないか。
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コメント
問題の本質とは離れますが、キックバックが国に戻らず公務員個人の懐に収まるのだから国民としては損をしているように思うのですが。
投稿: fuji | 2008年6月 7日 (土) 00時27分
大竹先生のご指摘、よくわかります。ただ一点、この問題それ自体がまずいというよりも、公金から支出されたタクシー券から(ビールぐらいならともかく)金券の提供を受けてしまって何も感じないというのは、他のより大きな業務における職務の公正との関係で、大変な問題だと思います。(職務の公正は小さなところから蝕まれていき、やがて大きな腐敗に繋がっていきます。大きな不祥事が起きる組織で調査を行うと、あらゆる意味で職務規律が弛緩しているのが通例です)
公金から結果としてキックバックを受けて何も感じないというのは悪しき日本の慣行であり、キックバックを受けて何も感じないその感覚が職務の公正を阻み、日本に公正な市場が成立しない遠因の一つにすらなっている、という点は意識する必要があろうかと思います。
投稿: 法 | 2008年6月 7日 (土) 03時21分
いつも思うのですが、こういう接待・利益供与を受けた公務員などは脱税として摘発されないのでしょうか? 摘発されるという現実が積み重なれば、こういう事例はおのずと減るのではないでしょうか。それとも税務署・国税局も同類なのでしょうかね。
投稿: 通行人 | 2008年6月16日 (月) 10時48分
大竹先生はタクシーチケットを利用されたことはありませんか?
チケットを利用した時は、利用日と乗車地・降車地を記入して運転手に渡すことになっています。
ところが、問題になっている公務員は、何も記入せずに運転手にチケットを渡すのです。
運転手は受け取った白紙のチケットに勝手に記入して実際の運賃よりはるかに高い金額の運賃を役所に請求するのです。
だから、タクシー会社や運転手は、お客に金品を渡しても十分にもうかるのです。
白紙のチケットを運転手に渡す公務員も、架空の高額運賃を請求するタクシーも、よくチェックせずに支払う公務員も、全員、犯罪者です。
投稿: gon | 2008年6月16日 (月) 17時19分
道徳至上主義者が道徳を駄目にしている気がします。
タクシーの価格規制に問題があるという意見に賛成。
投稿: 琉波尚志 | 2008年6月21日 (土) 04時15分
大竹先生
>規制によってタクシー料金が値下げできないから、タクシーの運転手が実質的な値下げ競争を行ったのだ。
上記の説明は非常に説得的で、興味深かったです。
一点だけ、ふと疑問に思うことがありました。それは、規制がなくても、こうした状況は起こりうるのではないか、という疑問でした。
タクシー運転手が、顧客によるタクシーチケット利用を予見した場合、すなわち、顧客は自腹ではないので料金の高低に反応するインセンティブを持たないということを予見した場合、タクシー運転手は料金以外の部分(例えば、顧客への直接の物品提供等)で他のタクシーより優位に立とうとするインセンティブを持つのではないか、と思ったのです。言い換えると、規制なしの状態でも、いわゆる居酒屋タクシーという状況が発生したのではなかろうか、と思うのです。
こうした可能性についてはどのように考えればよいのでしょうか。的外れな疑問でしたら申し訳ありません。
投稿: kj | 2008年7月 7日 (月) 01時20分
先生のご指摘、真っ当至極だと思います。
笑顔でお客様を迎える、上客なら飲み物の一つも提供する。
決してやましいサービスではないし、たまたま相手が公務員だったからといって、
世間から袋叩きに逢うのは納得できません。
公務員を叩くのは何であろうと善である、
という風潮の行き過ぎが生んだ不幸な事件だと思います。
投稿: | 2008年8月22日 (金) 07時15分