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2008年9月20日 (土)

市場競争のメリット

9月14日と15日に近畿大学で、日本経済学会の秋季大会がありました。その中で、興味深かったのは、「独禁法と競争政策の進化と設計:法と経済学のインターフェイス」というパネル討論でした。司会が東京大学の柳川範之氏で、最初に早稲田大学の鈴村興太郎氏、一橋大学の岡田羊祐氏、東京大学の大橋弘氏が日本の独禁法と競争政策の特徴や問題点について話をして、公正取引委員会の後藤晃氏と東京大学の松井彰彦氏がコメントし、その後議論をするというものでした。

印象に残ったのは、独占禁止法に関する政策の当事者たちの多くが法学者で、経済学者が少ないという指摘が複数あったことです。そして、そのような場では、市場競争のメリットを「完全競争はパレート最適をもたらすという厚生経済学の基本定理」に求めても、何の説得力ももたないという鈴村氏の指摘は、経済学者にとっては深刻な問題だと思いました。

市場競争のメリットを理解してもらえないのでは、市場競争の活性化をもたらす政策である独占禁止法どころか、規制緩和政策そのものの意味も、経済学者以外に理解してもらうことは不可能です。鈴村氏は、競争のプロセスがもたらす価値を重視すべきではないか、という提案をされていました。これに対し、松井氏は市場競争のメリットとしてインセンティブをもたらすことを強調してはどうか、という提案をされていました。

日本以外の国では、「格差が拡大したとしても市場競争によるメリットの方が大きい」という意見に賛成の人が圧倒的に多いのに、日本ではこの意見に同意する人が際立って少ないという国際的な世論調査の結果があります(詳しくは、拙著『格差と希望』、または、Inequality in Japan)。

岡田氏が、「独禁法は、「消費者の利益のために存在」し「競争者の保護ではなく、競争の保護」というのが、日本以外の国での標準なのに、日本ではそうなっていないのではないか」、という問題提起をされていました。消費者保護の仕事は、本来は公正取引委員会の仕事のはずなのに、消費者庁という別の組織が作られようとしていることが、日本の独占禁止政策の歪みを反映しているのではないか、という岡田氏の指摘には、私も全く同感でした。

これは、かなり根深い問題だと思います。日本の中学や高校の公民や政治経済の教科書を読んでも、市場競争のメリットはほとんど書かれていないのに、独占の問題や市場の失敗ばかりが強調されています。これでは、独占がなぜ悪いか、という本当のところが、人々に理解されないはずです。独占が問題なのは、競争が排除されて効率性が阻害されることであって、弱い競争者がかわいそうだというのではありません。多くの問題はあっても競争によって得るメリットは大きい、という共通の認識を私たちがもつ必要が高いと思います。

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コメント

大竹先生、
今回の投稿面白く拝見させていただきました。意外にも(特に中堅私立、旧国公立大の)経済学部の講義室でも「市場競争のメリット」がうまく伝えられていないように感じます。ほとんどの学生は公務員試験か大学院進学のため、エッジワースボックス上の経済主体の無差別曲線が互いに接する契約曲線と呼ばれる点列、軌跡が、「互いにこれ以上効用を最大化できないという意味で」パレート最適な状態である、と暗記し、いまひとつそれが市場競争の(パレートの意味で)メリットを表していると具体的なイメージで持って考えていないように感じます。抽象的過ぎるのです。ある先生は「比較優位」の原理を持ち出して、具体例を使って市場競争のメリットを唱えていましたし、別の人はそのメリットをマントラのごとく唱えます。そういった事情を反映してか、経済学徒がいう「効率性」が民間のビジネスマンが使うそれと言葉の意味が異なっているようにも感じます。経済学徒のそれは経済厚生の意味で、ビジネスマンのそれはバランスシートにおける経費削減という意味で使われることが多いように思うのです。こういった認識の違いがいまひとつ効率性を追い求めることへの猜疑心や警戒感、つまり「市場競争のメリット」についての理解を阻んでいるのではないかと感じております。

投稿: taro | 2008年9月20日 (土) 11時55分

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