子どもの貧困、子どもの最貧国・日本
子どもの貧困問題を扱った新書が、今年は2冊出版された。『子どもの最貧国・日本』山野良一著と『子どもの貧困』阿部彩著である。どちらの本も、日本の貧困問題の中で子どもの貧困が大きな問題になってきていることを様々な統計データを使って説得的に示している。今まで、貧困問題といえば高齢者の問題だと考えられてきた。実際、高齢者の貧困率は高いことは事実である。しかし、近年では高齢者の中に占める貧困率は低下傾向にある。近年、貧困率が高くなっているのは、20歳代、30歳代の若者であり、その子供である5歳未満の子どもたちだ。
山野さんの本には、子どもの貧困が、将来の教育水準に悪影響を与えることを、さまざまな世界各国の研究成果を使って紹介している点に特色がある。阿部さんの本は、子どもの貧困の現状についての豊富な統計データの紹介と制度改革の提言に特色がある。
高齢者の貧困問題は、人口が多いことと政治力が強いことから、注目を集めやすい。一方、子どもの貧困は、彼ら本人の政治力がゼロであることも影響して、注目を集めることが少ない。就学前の子どもが貧困状態におかれると、その影響は長期にわたって続くことが、最近の経済学の研究でもつぎつぎと明らかにされてきている。
不況による雇用調整の影響を最も受けるのは、若年の非正規従業員である。そして、その子どもたちはたとえ数年間の貧困状態を経験しただけであっても、生涯不利な立場に立たされる可能性が高い。先進国である日本で、子どもの貧困が問題になるというのは、信じられないかもしれないが、これが今の日本の現実である。これらの本を読んで、その共通認識を私たちはもつべきだろう。
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コメント
こちらの本もメモしました。
そのうち図書館にリクエストします。
投稿: あんとん | 2008年12月 7日 (日) 01時37分