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2009年1月11日 (日)

非正規雇用問題

2008年12月26日の毎日新聞に掲載された非正規雇用問題に関する私の論説をアップします。この論説からは、派遣の禁止という政策提言は出てこないことに注意してほしいと思います。もともと、日本では雇用調整が難しい正社員と雇用調整が比較的容易な非正規労働の二つのタイプの労働者がいたのであって、派遣労働はその一部です。派遣労働をなくせば、非正規労働の問題が解決するわけでもなんでもありません。問題は、正社員中心主義の雇用保障が、非正規労働への需要を増やしていくという日本社会の仕組みにあります。正社員を保護すればするほど、訓練を積んだ正社員を使わなくてもやっていけるような技術体系や雇用体系を取り入れることを企業に促進させるのです。景気変動を小さくするというマクロ政策は重要ですが、すべての経済ショックをマクロ政策でゼロにすることはできません。重要なのは、経済変動というショックを、株主、企業、正社員、非正社員の間でどのように負担するのが、長期の企業成長や日本全体にとって望ましいかという問題なのです。


「企業の内部留保活用を」 『毎日新聞/論点-どうする非正規雇用の大量解雇』、2008年12月26日朝刊

                                  大竹文雄

世界的な景気後退で、日本を代表する企業でも、雇用調整が行われている。特に、派遣労働者、契約社員、パート労働者といった非正規雇用の労働者が集中的に雇用調整の対象となっている。非正規労働者は、正規労働者よりも賃金が低い上に雇用も不安定なのだ。

 非正規労働者の雇用調整は、なぜ発生したのだろうか。それに対し、私たちはどのような対策をとるべきだろうか。

 日本企業は90年代にバブル崩壊後の過剰雇用、過剰設備、過剰負債に対処するのに苦しんだ。デフレのもとで、正社員の賃金カットも難しかった。過剰な雇用を抱えた企業は、正社員の新規採用を抑え、非正規労働者を採用した。そうしないと、次に企業が不況に直面した際に、正社員では雇用調整も賃金調整も難しいからである。それが、就職氷河期を生んだ。今回の不況で真っ先に職を失っていくのが、就職氷河期の世代を中心とした非正規労働者である。

 正規労働者の多くも賃金カットなどの影響を受けるが、職を失う非正規労働者よりは、経済的損失は小さい。正規労働者の雇用と賃金を守るために、非正規労働者の雇用に集中的に影響が出ているのは事実である。

 不況という負の経済ショックを誰が負担するか、という問題に私たちは直面している。関連する利害関係者は、企業および株主、正規労働者、非正規労働者の3者である。その中で、非正規労働者が集中的に負担しているのだ。

 もちろん、株価が下落することで株主が損失を負ったというのも事実である。しかし、2002年以降の景気回復期には、企業収益が増加し続け、株価が高騰したにも関わらず、労働者の賃金は上昇しなかったことを忘れてはならない。好況期に積み上げた内部留保を使って企業が雇用を維持するのが筋であろう。

 蓄積した内部留保では、企業が雇用や賃金を維持できない、というのであれば労働者も負担を引き受けざるを得ない。しかし、正社員の既得権益を守るために非正社員に負担を押しつけていいだろうか。非正社員が不安定な雇用と引き換えに高い賃金をもらっていたのだろうか。実態は逆である。正社員と非正社員の不当な格差を温存することのコストは大きい。たまたま、就職氷河期に学校を卒業しただけで、非正社員になって、低賃金な上に景気変動の影響を大きく受ける。これほど理不尽なことはない。新規採用の停止や非正社員の雇い止めをすることが、解雇権濫用法理という判例法理のなかで、企業の解雇回避努力として評価されるいうことも問題だ。

 企業も正規労働者も、自ら分配問題を解決できないということであれば、政府の出番である。好況期の過大な内部留保から便益を受けた資本家や高所得層の課税を強化し、低所得層へ所得を再分配するか、公的支出を増やして、職を失った人たちを雇用すべきである。教育・保育・介護等公的サービスの不足分野は多い。90年代の不況を就職氷河期の若者にしわ寄せし、今回の不況で彼らにとどめを刺すというのが、日本人の不況対策だとすれば情けない。(「毎日新聞」2008.12.26)

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コメント

typoです>解雇研濫用法理→解雇権濫用法理

あと、先生の診断には同意しますが、処方箋には反論します。詳しくはリンク先(非正規雇用問題:「ババ抜き」ゲームをやめればいい)に書きました。

投稿: hidetox | 2009年1月11日 (日) 18時29分

typoのご指摘ありがとうございました。修正しておきました。

投稿: 大竹 | 2009年1月11日 (日) 18時39分

◆福祉雇用制度の創設◆

非正規の雇用を守る福祉雇用体制が日本を守る
非正規の雇用の問題は衣食住をも奪い去る
失業保険では根本救済にはなりません。
産業界の協力で福祉雇用を確立し“人に優しい会社”
仕事があれば衣食住の問題も解決します。
まて今までの人手不足により海外から出稼ぎや移民してきた
日系の方々の救済も国で責任を持ち雇用創出するのです。
これが日本を救う一番の方策です。

詳しくは下記のブロゲに書いてあります
ご購読頂ければ幸いです

◆人事総務部ブログ&リンク集
 http://www.xn--3kq4dp1l5y0dq7t.jp/

投稿: 人事総務部 | 2009年2月21日 (土) 22時18分

その通りです。
雇用問題は最優先でやらないと駄目です。
このままでは、暴動が起きるのは目に見えてます。
失業率が上がればそれだけ凶悪犯罪が増えます。
そして治安は間違いなく悪化します。
そのならない為にも早急な対策が必要です。
企業に対して働きたい人を無条件で採用することを義務付け、違反した場合は厳罰で臨む事。そして安易なリストラに対しても厳罰で臨む事。パワハラ、セクハラに対しても厳罰で臨む事。
貧困層に対しては手厚い保護をし、違反した場合は財産没収を含む厳罰で臨む事。
これらをぜひ政府与党にやってもらいたいですね。
それが出来なければ民主党なり、共産党なり、やる気のある政党に政権を明け渡すべきです。
はっきり言ってやる気のない政党に政権を握ってもらいたくないです。
ちなみに私は自民党が大嫌いです。
自民党を見てると反吐が出ます。

投稿: 名無し | 2009年3月12日 (木) 00時10分

この手の問題の本質は「判決によって過剰に守られすぎている正社員とそうではない非正社員」にあり、解雇規制の緩和しか処方箋はありません。

短期的、政治的には政府が温情主義を持ち出すのは間違いではありませんが。

会計学や財務諸表論を読むと、内部留保は「過大な配当を要求しがちな株主(議決権あり)から債権者(銀行)を守るシステム」であるとされます。さらに、日本の大企業のROEは人件費が高いため、今でも低いです。

従って、大竹教授の資本家批判は違います。

投稿: | 2009年7月23日 (木) 13時23分

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