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2009年3月 4日 (水)

職場の法律は小説より奇なり

大阪大学の労働法の教授である小嶌典明先生が、日本の労働法がいかにヘンテコなものであるかを、わかりやすく書いてくれた。『職場の法律は小説より奇なり』は、管理職はもちろん、雇用問題に関心がある人は必読だ。規制改革と大学法人の人事労務の実務に関わった労働法学者だからこそ書くことができた日本の労働法の姿が、この本に描かれている。

どうしてこんな変な労働法に私たち日本人は困らされることになったのだろうか。小嶌先生の答えは明快だ。それは、裁判官も含めて公務員という「労働法の適用を受けない者が、労働法の世界を経験しないまま、労働法をつくる」からだ。

不況で雇用調整が深刻になってくると、雇用不安を「解消する」ために、様々な雇用法制の改革が提案される。そうした提案に関わる人たちは、是非この本を読んで、本当にその改革が労働者のためになるのか、を考えてほしい。

目次
基本ルールと現場の心得-できないことは約束しない

 第1話 労働法という名称の法律はない
 第2話 労働契約の内容は就業規則で決まる
 第3話 限界のある労働協約、際限のない交渉義務

職業生活の有為転変-捨てる神あれば拾う神あり

 第4話 採用にミスマッチはつきもの
 第5話 辞めるとき、辞めさせるとき
 第6話 変わるもの、変わらないもの

裏目に出た規制強化-正義の道は地獄へと通じる

 第7話 かえって雇用が不安定化した派遣社員
 第8話 更新に限度が設けられた有期雇用契約
 第9話 待遇改善が難しくなったパート従業員

口には出せない行政への注文-過ちを改むるに憚ることなかれ

 第10話 四・六通達と「サービス残業」
 第11話 告示三七号と派遣・請負の区分
 第12話 九・二六通達と「2009年問題」

ウソのような本当の話-事実(法律)は小説より奇なり

 第13話 仕事をしない「仮眠時間」も労働時間
 第14話 組合員は1人でも1000人でも権利は平等
 第15話 労働法の適用を受けない公務員の世界

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コメント

本書は読みました。若干の感想
1.労働法の世界を経験しないまま労働法をつくるとい点について。あらゆる立法において一般的にありうることである。労働法学者で民間で雇われたことのある人や派遣労働をしたことがある人は少ないであろう。重要なことは、その立法過程にいかにそれに関わる人の意見や、民主的統制を及及ぼすかである。労働法制は「労使」代表者が議論する過程が必ずある。その中身を実質化することこそ重要である。
2.派遣労働などの規制強化はかえって雇用を失わせるというのは現象としては正しい。教授も普段から言われるとおり、特に製造業などでは雇用の緩衝地帯が必要なのである。しかし、その緩衝をもたらすものとして、正規雇用者の解雇、減給などの措置がある。この点に柔軟な対応を認めれば、必ずしも派遣労働の行過ぎた規制緩和は必要だったのか。実は、正規雇用者(特に大企業の単純労働者)はかなり優遇されており、ここへの行過ぎた規制を緩和すべきというのは教授の従来からの論である。しかし、実際の改革の結果は、派遣労働者をはじめとする非正規雇用者のみが「ドロ」をかぶる結果となってしまった。この点は、政府だけの責任ではなく学者としての説明と道筋を立てられなかった責任もあるではないか。労働白書は、行過ぎた規制緩和が低賃金者の活用つまりは非正規雇用者の増加を生み出したとする。この分析が正しいかどうかは例えば大竹教授がお詳しいであろうが、しかし、少なくとも、使用者側のマインドを変化させたことは間違いないと思う。
3.労働法が遵守されるかどうか、遵守されない労働法などは役に立たないとは一般論としてはいえる。本書にもそのような記述がある。しかし、法には、遵守されることによって得られる効果とともに予防線をはるという実質的な効果もある。法の「機能」は決して一面的なものではない。
4.全体としてみれば、労働法は、大企業には過剰に働き、零細企業には過小に働く。本書では、その過小にしか働かないケースに対してどのような立法内容が相応しいのかについても言及が欲しかった。本書の指摘は、これまですくなくとも労働法学者が指摘を怠ってきたことで、指摘そのものは重要である。しかし実は、日本でも中小零細企業に勤める人が圧倒的に多いのであることも考慮に入れて、現実に機能する法を模索する姿勢が欲しいのである。
5.今日の格差論は感情的で行過ぎた面があり、テレビの報道の仕方は確かにおかしい。しかし、行過ぎた格差論があるのと同様、行過ぎた規制に対する反動としての行過ぎた規制緩和もある。その検証をすべきときは今しかない。「よかれと思ってやったことが地獄を生む」・・・それは一般論だけに、それをいう側にもそのまま返ってくるかも知れないのである。

投稿: 神部秀美 | 2010年9月 6日 (月) 21時27分

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