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2009年7月

2009年7月30日 (木)

上限金利規制と最低賃金

 最低賃金と消費者金融の上限金利規制は、価格規制という点で共通している。どちらも、規制によって雇用や貸出額が減ってしまうという点も同じだ。それでも、これらの価格規制が必要だということを主張するためには、市場の失敗か、消費者(労働者)の非合理性を前提とする必要がある。

 市場の失敗の例として、一番有名なのは独占だ。消費者金融の貸し手(労働市場の雇い主)が独占的状況になっている場合は、価格規制をして完全競争の価格に近付けることで、貸出額(雇用量)が増えることになり、社会全体の効率性が増す。

 しかし、日本の経験はこの結果をサポートしない。消費者金融の上限金利の引き下げによって、お金を貸してもらいない人の比率があがり消費者金融の貸出額は減っているようだ。一方、最低賃金の引き上げについても先日紹介した川口さんと森さんの研究によれば雇用を減らしている。

 では、上限金利の引き下げはなぜ行われたのだろうか。おそらく、返すことができない人までお金を借りてしまって多重債務者になってしまったという問題の方が、高い金利でもお金を返すことができたはずの人が借りられなくなってしまうという問題よりも深刻だと人々が判断したということだろう。金融機関が貸してはいけない人に貸していたということが問題視されたのだ。上限金利を引き下げることで、リスクの高い人にはお金を貸さないという経営を金融機関がせざる得をえない仕組みにしたのだ。高い金利でもお金を借りたいという人の意思に反してでも、お金を貸せなくしたのだ。上限金利規制に賛成した人たちは、貸出額の減少を当然のことと思っているはずだ。

 同じことが最低賃金の引き上げを主張する人たちにも言えるはずだ。最低賃金引き上げによって、雇用が減り、失業者が増えたとしても、それは「望ましいこと」だと判断するに違いない。つまり、最低賃金で働いている人たちは、本来、その仕事を選ぶよりは失業して仕事を探してもらった方がよかった、という議論の設定をする必要がある。職探しをしないで低い賃金でも仕事をしてしまうということが、長期的には本人にとってもよくないにも関わらず、低賃金の仕事を選んでしまう、ということが最低賃金で働く本当の理由だとしよう。この場合なら、最低賃金を引き上げることで、人々はより長く失業したり、職業訓練を受けてより賃金の高い仕事を見つけることになるはずだ。

 「そんなことはわかっているけれど、今日暮すだけのお金がないので仕方なく安い賃金の仕事をしている」、という人が大半なのかもしれない。でも、それは消費者金融で高い金利でお金を借りたかった人も同じはずだ。今日暮すお金に困っているから高い金利でもいいと思って消費者金融から借りていた人を金利規制は排除しているのだから。

 もし、特に外部性がなく(つまり他人に迷惑をかけていなく)て、本人がきわめて合理的に考えて最低賃金付近で働いているのであれば、その人の選択を強制的に変えてしまうことは、望ましいことではない。

 しかし、なんらかの行動経済学的な意思決定バイアスが、最低賃金付近で働いている人たちに存在するのであれば、消費者金融の上限金利規制の正当化と似た議論ができるのかもしれない。ただし、それはよくわかっていないのが実情だ。最低賃金付近で働いている人たちの行動様式に関する実証研究の蓄積がもっと必要だ。

 大幅な制度変更をする前に、政府の業務データを含めて政府統計を研究者にもっと公開し、研究を深めることが必要だろう。役所がデータを出さないことが、政策提案競争のレベルを引き下げているのであるとすれば、政党は役所に対してもっと統計データの研究利用のための公開を要求すべきではないだろうか。たとえば、失業保険受給者の求職行動に関するデータは業務データとして存在しているにも関わらず、研究のために公開されていない。海外では、そうした業務データを駆使して、失業保険制度や職業紹介制度の効率化が行われている。分析に基づいて制度を変えることで、公的支出の無駄が大幅に減るのである。新統計法になってデータの公開の環境は整備されたが、まだまだ十分に政府統計が活用されているとはいえない。データの公開は、財政の効率化のためのお得な投資である。

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2009年7月28日 (火)

自信過剰が男性を競争させる

自信過剰が男性を競争させる(pdf)」行動経済学』2009年7月23日(水谷徳子・奥平寛子・木成勇介・大竹文雄)がウェブジャーナルに掲載されました。トーナメント型の競争的報酬体系と出来高払い報酬体系との選択に関する男女差を、競争選好と自信過剰の男女差から、経済実験をもとに分析した論文です。男性が競争的な報酬体系を好むのは、自信過剰が主な原因というのが主要な結果です。

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石川遼とウッズの予選落ち

今年の全英オープンでは、石川遼選手とウッズ選手が同じ組で回って、ともに予選落ちしてしまった。石川選手がウッズ選手のパフォーマンスに何か影響されたり、逆にウッズ選手が石川選手にされるということがあったのだろうか。経済学における最近の研究の中には、職場での同僚のパフォーマンスに人々の生産性が影響を受けることを示した研究がいくつかなされてきている。では、プロゴルフではどうだろうか。Jonathan Guryan、Kory Kroft、Matthew J. Notowidigdoの3人の研究者たちは、プロゴルフでトーナメントのパートナーの差が成績に与える影響を分析している。彼らの研究(pdf)(要約はここ)によれば、プロゴルファーは誰とペアになろうが成績は変わらないそうだ。石川選手とウッズ選手がともに予選落ちしたのは、偶然ということなのだろう。

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2009年7月27日 (月)

出社が楽しい経済学 DVD版

NHKで放映された「出社が楽しい経済学」がDVDとして発売された。経済学の概念の基礎整理として、とてもよくできたシリーズなので、経済学に関心のある高校生や経済学で苦しんでいる大学生におすすめ。

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最低賃金引き上げの効果

 最低賃金の引き上げが雇用にどのような影響を与えるかについては、以前、橘木先生と私の対談(pdf)を紹介した。日本についての実証研究が不足しているというのが共通の事実認識だった。
 最近、一橋大学の川口大司さんと森悠子さんが、本格的な実証研究を発表した。最低賃金周辺で働いている人たちの特徴を明らかにした上で、最低賃金引き上げが雇用率に与える影響を日本のデータを使って分析している。
 世帯主についてみると、最低賃金で働いている人は、そうでない人にくらべて年収が低い。これは当然だろう。しかし、最低賃金で働いている労働者の約70%は、世帯主ではない。年収300万円以下の低所得世帯の世帯主となっているのは、最低賃金で働いている労働者の15%程度である。多数派の最低賃金労働者(最低賃金労働者の約50%)は、世帯年収500万円以上の世帯主以外の労働者である。最低賃金を引き上げることは、貧困世帯の所得を上げることには、あまり有効ではないことがわかる。最低賃金で働いている人の多くは、パートで働く中年の女性ということだ。
 それでは、最低賃金の引き上げは雇用にどのような影響を与えるだろうか。彼らの実証結果によれば、最低賃金引き上げによって10代男性および既婚中年女性の雇用が失われる。また、在学中の高校生の就業率が上がるそうだ。こうした効果は、最低賃金引き上げの意図通りなのだろうか。貧困対策としては、適した政策かどうか、今一度考えてみる必要があるのではないだろうか。 

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2009年7月15日 (水)

固定資産税

7月15日の日経経済教室に掲載された一橋大学の林正義の固定資産税に財源を求める案に賛成だ。低所得の資産保有者への対応の方法も林氏は提案している。彼が言うとおり
固定資産税は、応益課税になる上、再分配政策になる。しかも、中心市街地の活性化にもつながるだろう。そのためには、土地・建物の固定資産の評価を透明にしていく工夫が必要だ。それには、ストック市場を活性化が不可欠だろう。何より、情報を流通させることが大切だ。マニュフェストに入れてみてはどうだろう。

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2009年7月13日 (月)

30代の市長

千葉市、奈良市それに私が住む箕面市も市長は30代だ。どうして若い市長が選ばれるにようになってきたのだろうか。人口の高齢化が進んでいるので、高齢者の意見をより重視するような高齢者の市長が選ばれるようになってもおかしくない。それにも関わらず、若い市長が選挙で選ばれるようになってきた。

第一の可能性は、今までの政治家の養成システムがうまく機能しなくなったことではないだろうか。地元の利権を代表するような仕事や市役所の仕事を長期間続けていくことが市長になるルートだったのではないだろうか。そうして蓄積される能力と、これからの市長の仕事に必要とされる能力がとうまく対応していないのかもしれない。

第二の可能性は、就職氷河期の影響である。30代前半層は、学校を卒業したときに就職氷河期だった。長期雇用の大企業に就職せず、起業したり、中小企業に就職したり、NPOで働いたり、フリーターとして働いている優秀な人も多い。長期雇用の企業だと、政治のために仕事を辞めるコストも大きいが、そうでなければ、選挙に出やすいのかもしれない。

第三の可能性は、現在の政治環境の影響である。今は、政治の仕組みが大きく変わる次期なので、政治や行政を変えるチャンスに満ちていて、やりがいが大きいのかもしれない。それが、優秀な若い人を政治に向かわせるのかもしれない。

私は労働経済学者だから、第二の可能性に注目している。

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2009年7月 7日 (火)

花々の系譜 浅井三姉妹物語

先日、34年ぶりに中学校時代の担任の先生にお会いする機会があった。国語を苦手科目から得意科目に変えてくれた畑裕子先生だ。私が卒業してしばらくしてから中学校を退職されたと聞いていたが、一度もお会いする機会はなかった。小説の出版記念パーティの案内を頂いたときは、すぐには先生の名前と小説家というのが結び付かなかった。小説家の知り合いはいないはずなので、「何かの間違いでは」、と思ったくらいだ。パーティでは、中学時代の同級生にも会うことができて、タイムスリップを楽しむことができた。

畑先生は、中学校を退職後小説を書き始められて、1994年には朝日新人文学賞を受賞されたということだった。今度の新刊は、「花々の系譜 浅井三姉妹物語」というタイトルで、再来年のNHKの大河ドラマとも関連があるということだ。ここに先生のインタビュー記事がある。

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