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2009年7月27日 (月)

最低賃金引き上げの効果

 最低賃金の引き上げが雇用にどのような影響を与えるかについては、以前、橘木先生と私の対談(pdf)を紹介した。日本についての実証研究が不足しているというのが共通の事実認識だった。
 最近、一橋大学の川口大司さんと森悠子さんが、本格的な実証研究を発表した。最低賃金周辺で働いている人たちの特徴を明らかにした上で、最低賃金引き上げが雇用率に与える影響を日本のデータを使って分析している。
 世帯主についてみると、最低賃金で働いている人は、そうでない人にくらべて年収が低い。これは当然だろう。しかし、最低賃金で働いている労働者の約70%は、世帯主ではない。年収300万円以下の低所得世帯の世帯主となっているのは、最低賃金で働いている労働者の15%程度である。多数派の最低賃金労働者(最低賃金労働者の約50%)は、世帯年収500万円以上の世帯主以外の労働者である。最低賃金を引き上げることは、貧困世帯の所得を上げることには、あまり有効ではないことがわかる。最低賃金で働いている人の多くは、パートで働く中年の女性ということだ。
 それでは、最低賃金の引き上げは雇用にどのような影響を与えるだろうか。彼らの実証結果によれば、最低賃金引き上げによって10代男性および既婚中年女性の雇用が失われる。また、在学中の高校生の就業率が上がるそうだ。こうした効果は、最低賃金引き上げの意図通りなのだろうか。貧困対策としては、適した政策かどうか、今一度考えてみる必要があるのではないだろうか。 

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「論文紹介」カテゴリの記事

コメント

能力給に対する企業側の怠慢が、結局、こういった結果になるのです。政治では、個人の能力評価ができないから、全体主義的に底上げするしかないのでしょう。混乱なくて成長はありません。温室で育てていくことはできないのです。

とにかく、企業全体は、高度成長期に保有してきた財産を、株主や働いている人に配分しなければなりません。それと、法人と個人との格差を減らさない限り、日本は衰退するしかありません。個人が不利すぎます。

格差社会というのは、日本の場合、個人間にはあまりありません。法人と個人の二つの格をもっている人たちが特別な利益が得られる不公平と、法人間格差がひどい、法人というのは役所も含めます。

ま、とにかく、最低賃上げのしわ寄せは、まずは、働くものたちに来るのでしょうが、結局は、企業側に火の粉がふりかかるようになっています。パートの失業率が上がれば、生活保護世帯が増えるのと、職場環境の悪化、それと、一般消費者全体の所得の低下からの消費の低迷。

ようするに、国民を大切にしていないで、金儲けに偏って、今でも、金優先の思想がはびこっているのが日本を衰退させるってことでしょうな。

投稿: あんどう | 2009年7月28日 (火) 07時33分

最低賃金が政策目標の「貧困対策」に役立たないという指摘はその通りだと思いますが、大竹さん自身は「貧困対策として」どのような政策が望ましいと考えているのでしょうか?

負の所得税のような形でしょうか?経済学者の方々には政策批判だけでなく、建設的な対案を述べる方に力を入れて頂きたいです。批判は素人が好き放題行うと思います。著書に書いていらっしゃるのかもしれませんが、blog上でも触れて頂きたいです。

投稿: きの | 2009年7月28日 (火) 15時16分

これは非常にいいエントリーですね。

勉強になりました。ありがとうございます。

投稿: yang | 2009年7月29日 (水) 12時09分

どうしても必要で働いているのに収入が少なくて困っている人というのは、今の日本では案外少ないような気がします。

ほとんどの日本人は、より以上の贅沢のために、より以上の働きをしているような。

投稿: Toshi@タイ | 2009年7月29日 (水) 12時33分

最低賃金で働いている層がどういった層なのかを、きちんと実証したことは意味があると思います。

その意味で、最低賃金の変化が貧困層に与える影響は少ないということはわかりますが、なぜ後段で雇用喪失をそれほど懸念されるのかわかりません。もともとその層に貧困層は少ないのですよね?

雇用が減り労働密度が上がれば、ちょっと副業で働いている人より、生活がかかっている人のほうが残るでしょうし、そうなれば生活がかかっている人が最低賃金引き上げの恩恵にあずかれます。

世帯として余裕があるパート主婦や学生アルバイトにはちょっと遠慮してもらうというのが、ワークシェアとして正しいと思うのですが。

また、問題として大きそうなのは、学費を稼がなければならない貧困層の十代ですが、それこそ、民主党の就学支援のような政策で対応すべきだと思います。

投稿: unk | 2009年7月29日 (水) 13時23分

温室育ち=悪なんですかね?

日本が高度成長して子供がたくさん生まれていた頃って、電電公社(現NTT)、国鉄(現JR)、専売公社(現JT)、道路公団(現NEXCO)、郵便局(現JP)といった、身分が保障され収入が安定している職場がたくさんありましたよね?

これらの国営企業民営化とバブル崩壊、経済疲弊、デフレが同時進行しているのは偶然の一致なんでしょうかね?

投稿: ponpon | 2009年7月31日 (金) 12時24分

時給1.000円にすると雇用側からこの人には時給1.000円の価値はあるが
この人には時給1.000円の価値はないからそれ以下の人は全員レイオフする
という短絡的な対応が全国規模で爆発的に増えると思いますよ。
単純労働の世界だと効率が重視されるので残れるのはほんの一握りでしょうね。
結果的に能力給のに近い形に移行し失業者の救済枠は益々狭くなるわけで。
身分不相応に隴を得て蜀を望むという姿勢は労働者に間違いなく仇となって帰ってきますね。
小学生でもわかる理屈なんですがこれを理解していない社会人の多さに戦々恐々です。

投稿: 名無し | 2009年8月11日 (火) 17時07分

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» [社会]社会にもワクチンが必要 - 現状を憂うなら自分の行動を憂え [keitaro-news]
現実に社会は格差を生んでいます。世界で裕福な上位1000人が保有する純資産の総額は、世界の最低貧困層25億人の資産総額の約2倍に相当するという現実があります。各個体の層では自由が達成されています。権力者の層にも自由の流動性が取り込まれているからだ。政治家... [続きを読む]

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» 最低賃金引き上げの効果: 大竹文雄のブログ [oryzaの環境備忘録]
最低賃金引き上げの効果: 大竹文雄のブログ [続きを読む]

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» [経済]最低賃金引き上げの得失 [himaginaryの日記]
7/26エントリのコメント欄では、大竹文雄氏が一橋大学の川口大司氏と森悠子氏による実証論文をブログで取り上げたことを教えてもらった。 この実証論文により、大竹氏は最低賃金引き上げ慎重論に舵を切ったようだ。氏は、該当エントリで以下のように論文の内容を紹介しつつ... [続きを読む]

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