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2009年8月

2009年8月28日 (金)

不況期に育った世代

18歳から25歳の頃、つまり、高校や大学を卒業してしばらくの間に、不況を経験するかどうかが、その世代の価値観に大きな影響を与えるそうだ。Giuliano教授 (University of California, Los Angeles)とSpilimbergo教授 (International Monetary Fund)の”Growing Up in a Recession: Beliefs and the Macroeconomy” (pdf)という論文であきらかにされている。

この時期に、不況を経験した人は、「人生の成功が努力よりも運による」と思い、「政府による再分配を支持する」が、「公的な機関に対する信頼をもたない」、という傾向があるそうだ。アメリカのデータを用いた分析だ。この価値観は、その後、歳をとってもあまり変わらないということだ。言われてみると、なるほどと思う。就職氷河期を経験した日本の若者たちにも同じことがあてはまるかもしれない。若年期の不況による価値観の形成が、今回の選挙の動向を解釈する上で有益な論文のように思う。

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2009年8月10日 (月)

市場主義に不可欠な公共心

『週刊東洋経済』の8月15-22日号に、「市場主義に不可欠な公共心」というエッセイを書きました。

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2009年8月 5日 (水)

誰と戦うか

「群れの中で順位の低いものにとって、自分よりはるかに高い順位のものと戦うことは、何も得ることのないリスクを冒すことである。ほぼ対等の者の間に対立が集中するのは、互いの相対的地位が不確かで、序列が変わる可能性があるからである。」『格差社会の衝撃』(p.155)に書かれている文章だ。著者は、サポルスキーの『霊長類のメモワール』という本に書かれているヒヒの観察結果を紹介して、人間社会にも当てはめている。

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最低賃金に関する文献

最低賃金に関する文献を紹介しておこう。

日本の制度や実態に関する日本の議論は、つぎの文献が参考になる。ただし、どちらも少し前なので、制度の内容は最新のものと少し異なるが、経済学的な議論や賃金分布についてまとめられている。

「最低賃金制度のあり方に関する研究会」報告書

・「日本における最低賃金の経済分析」 堀 春彦、坂口 尚文

この報告書の第3章に賃金分布の分析がある。ホームページには10円刻みの賃金分布のデータもアップされている。

海外における研究の展望は、Neumark 教授とWascher教授によるMinimum Wagesがいい。

最低賃金が賃金分布に与える影響については、単純な完全競争モデルでは、賃金分布で最低賃金以下の分布が切れるだけで、最低賃金のところに山(スパイク)は観察されないはずだ。生産技術も労働者の生産性も変わっていないのであれば、最低賃金がひきあげられた時に、最低賃金水準で働く人が増えるということは説明できない。ところが、最低賃金水準でスパイクが観察されたり、最低賃金の引き上げに伴って最低賃金より高いところでも賃金の引き上げが観察されることがある。

最低賃金のところでスパイクが生じるのは、需要独占になっている場合か、不完全情報でサーチ費用が生じて需要独占に近い状況が発生しているという説明が多い。

最低賃金引き上げが最低賃金以上の人の賃金を引き上げる効果をスピルオーバー効果と呼ぶが、これは通常2つの説明がなされる。

第一は、労働者の技能レベルに多様性があった場合に、最低賃金の引き上げで、低技能労働の雇用ができなくなって、高技能の雇用に需要がシフトした場合である。この場合には、最低賃金以上の生産性の技能をもつ労働者の需要が高まるので彼らの賃金も上昇する。ただし、それまでに比べて労働費用が高まったことには間違いがないので、生産量そのものが低下し、雇用が全体として減るという効果もあるので、本当に高技能労働者へのシフト効果が大きいのかどうかはわからない。

第二は、行動経済学的な考え方だ。最低賃金が引き上げられると、労働者間の相対賃金が変わってしまう場合がある。たとえば、時給800円の人と900円の人がいて、900円の人の方が生産性が高いという場合に、最低賃金が900円になると、もともと900円だった人は、以前800円の人と同じ賃金だとやる気をなくしてしまうかもしれない。こうした、労働者の行動経済学的特性を考慮して、雇用主は最低賃金の引き上げに伴って、それ以上の賃金の人の賃金水準も少しずつアップさせる。

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2009年8月 4日 (火)

最低賃金制度の余剰分析

労働市場が完全競争のときであっても、最低賃金を市場賃金以上に引き上げによる失業増加が少なく、最低賃金の上昇が大きければ、賃金の期待値が上がるので、労働者にとって望ましい、と考えている人もいるようだ。少しくらい失業が出ても、雇われたときの賃金が上がれば得ではないか、ということだろう。

 合理的な労働者を前提とした場合、この考え方には、三つの問題がある。第一に、最低賃金が引き上げられた場合に、そこで雇われる人は、低い賃金でもいいから最も働きたいと思っている人(消費者余剰の大きい人)から雇われるわけではなく、どの程度働きたいという気持ちが強いかとは無関係にランダムに雇われる。そうすると、賃金上昇による消費者余剰の増加は、その分小さくなる。

 第二に、仮に、労働者としての消費者余剰が最低賃金上昇によって増加しても、生産者余剰は確実に減少し、その効果が上回るので社会的な総余剰は確実に減少する。

 第三に、最低賃金が引き上げられなければ、全員が雇われていた場合でも、引き上げによって、運よく職を得られる人とそうでない人の間に格差が発生する。その意味でも、格差解消策どころか、格差拡大策になる。最低賃金引き上げによって、職についている人の間の賃金格差は縮小するが、職につけない人が増えるのだ。

 八田先生の「ミクロ経済学 II」の56ページから60ページに以上のことが丁寧に書いてある。

 私のこのエントリーは、最低賃金上昇で雇用が失われることを正当化するための一つの説明方法として、行動経済学的バイアスがある、ということを説明したものだ。

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自転車反応

格差社会の衝撃』に、社会的階層の上位と下位の順位(優位順位)が重視される社会では、「上位の者から屈辱を受ける会の者は、自分よりもさらに下位の者に対して「攻撃の置き換え」を行い、自分自身の地位や権威を示そうとする。」という興味深い指摘がある。テオドール・アドルノは、ホロコーストの分析で、このような現象を「自転車反応」と呼んだそうだ。「階層性の強い権威社会では、人は上位の者に対しては頭を低く下げ、一方、下位の者を足蹴にするからである」。その格好が自転車競技の選手に似ているのが、自転車反応の由来である。

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2009年8月 3日 (月)

格差社会の衝撃

格差社会の衝撃』は所得・社会的地位の格差が、ストレスを通じて、健康にいかに悪影響を与えるかを、豊富な実証研究をもとに明らかにしている。格差に関心を持つ人には、必読書だろう。

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ミクロ経済学 II

 八田先生の「ミクロ経済学 II」が出版された。「ミクロ経済学 I」と同様、政策への応用事例が豊富なところと懇切丁寧な説明に特色がある。「効率化と格差是正」という副題があるように、効率性と分配の問題が、多くの具体例をもとに説明される。労働問題、住宅問題、住宅問題に関する具体例が特に豊富である。扱われている経済政策課題の一覧が、「はしがき」で表にまとめられているので、関心がある分野から読んでいくこともできるだろう。

 また、巻末には、「リーディング・リスト」があり、教養レベル、入門レベル、中級レベル、上級レベルと経済学のすべての分野にわたって、本の案内がある。経済学だけではなく、英語や数学の教科書まで紹介してあって、至れり尽くせりである。経済学に関心があるというレベルの人から、大学院に進学しようというレベルの人まで、かなり幅広い人たちに有益な本だ。

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2009年8月 2日 (日)

実践 行動経済学

セイラー教授とサンスティーン教授の”Nudge”の翻訳が『実践 行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択』というタイトルで出版されている。行動経済学を勉強してみたいという人が多い。以前、このブログでも行動経済学を勉強するための本のリストを紹介した。その時、「応用力をつける」ための本として、推薦していたのが、この本の原書だった。環境対策、ダイエット、禁煙など、本当はこうしたいと思っていても、ついできないことが多い。この本を読めば、その解決方法のヒントがもらえるだろう。人々の自由意思を尊重しながら、本人にも社会にも”望ましい行動”を人々にとらせていくというのは、政策的にも重要だろう。

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現在と将来の選択

「10年で家庭の手取りを百万円増やす」という自民の公約に対して、「今の生活が大変なのに能天気。10点だ」とある野党党首が述べたそうだ。確かに、今の所得も将来の所得も両方とも100万円増やす政策があれば、それがいいに決まっている。

 でも、多くの場合は、すぐには効果が出ない。無理に即効性を期待できるような政策を打つと、将来の生活水準が下がってしまうかもしれない。現在、税金をとらないでばらまきをすれば、現在豊かになれるかもしれないが、将来増税になる。増税されてもお釣りがくるくらい将来豊かになっているのであれば、確かにその政策はすばらしい。そういう政策を考えだすことが一番大事なのだろう。それができない場合は、現在と将来のトレードオフを考えた上で、現在の政策を考えるというのが、次善の策だろう。

 ところが、現在と将来で両立不可能な政策もある。環境問題だ。地球温暖化対策にどれだけ費用をかけたところで、効果はすぐにはでない。50年先の地球環境を守るためには、今、二酸化炭素の排出量を減らなけらばならず、そのためには現在の生活水準を落とさなければならない。しかも、効果は不確実である。環境問題解決のために環境税を課すというのは有効な政策である。環境税や環境対策についても「今の生活が大変なのに能天気」ということにならないだろうか。

 年金問題の本質も、将来世代と現在世代の格差にある。格差を解消するためには、現在世代の年金給付を下げるか、年金保険料を上げるしか、将来世代の負担を減らす方法はない。もちろん、これから高い経済成長が達成できれば話は別だ。

 「今の生活が大変なのに能天気」という言葉は、将来のことを考えない立場とも受け取られかねない言葉のように思う。

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