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2009年8月 5日 (水)

最低賃金に関する文献

最低賃金に関する文献を紹介しておこう。

日本の制度や実態に関する日本の議論は、つぎの文献が参考になる。ただし、どちらも少し前なので、制度の内容は最新のものと少し異なるが、経済学的な議論や賃金分布についてまとめられている。

「最低賃金制度のあり方に関する研究会」報告書

・「日本における最低賃金の経済分析」 堀 春彦、坂口 尚文

この報告書の第3章に賃金分布の分析がある。ホームページには10円刻みの賃金分布のデータもアップされている。

海外における研究の展望は、Neumark 教授とWascher教授によるMinimum Wagesがいい。

最低賃金が賃金分布に与える影響については、単純な完全競争モデルでは、賃金分布で最低賃金以下の分布が切れるだけで、最低賃金のところに山(スパイク)は観察されないはずだ。生産技術も労働者の生産性も変わっていないのであれば、最低賃金がひきあげられた時に、最低賃金水準で働く人が増えるということは説明できない。ところが、最低賃金水準でスパイクが観察されたり、最低賃金の引き上げに伴って最低賃金より高いところでも賃金の引き上げが観察されることがある。

最低賃金のところでスパイクが生じるのは、需要独占になっている場合か、不完全情報でサーチ費用が生じて需要独占に近い状況が発生しているという説明が多い。

最低賃金引き上げが最低賃金以上の人の賃金を引き上げる効果をスピルオーバー効果と呼ぶが、これは通常2つの説明がなされる。

第一は、労働者の技能レベルに多様性があった場合に、最低賃金の引き上げで、低技能労働の雇用ができなくなって、高技能の雇用に需要がシフトした場合である。この場合には、最低賃金以上の生産性の技能をもつ労働者の需要が高まるので彼らの賃金も上昇する。ただし、それまでに比べて労働費用が高まったことには間違いがないので、生産量そのものが低下し、雇用が全体として減るという効果もあるので、本当に高技能労働者へのシフト効果が大きいのかどうかはわからない。

第二は、行動経済学的な考え方だ。最低賃金が引き上げられると、労働者間の相対賃金が変わってしまう場合がある。たとえば、時給800円の人と900円の人がいて、900円の人の方が生産性が高いという場合に、最低賃金が900円になると、もともと900円だった人は、以前800円の人と同じ賃金だとやる気をなくしてしまうかもしれない。こうした、労働者の行動経済学的特性を考慮して、雇用主は最低賃金の引き上げに伴って、それ以上の賃金の人の賃金水準も少しずつアップさせる。

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受信: 2009年8月16日 (日) 23時01分

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