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2009年11月26日 (木)

人件費は研究費ではないのか?

 11月26日のGCOEに関する事業仕分けで気になった議論があった。人件費に関するやり取りだ。第一は、人件費は研究費と別であり、GCOEの資金が研究費にあまり使われていないのではないか、という指摘だ。第二は、RAやポスドクが大学院生の生活支援ではないか、という指摘だ。
 第一に、研究費のイメージが古すぎる。研究には、確かに研究機材を買ったり、試薬を買ったり、調査をしたり、というところにお金ががかるのは事実である。しかし、モノさえあれば自動的に研究成果が出てくるわけではない。一番大事なのは、ヒトである。優秀な大学院生やポスドクが研究の最前線にいて、どれだけ優秀な人材を集め、育てるかが研究の成果を決める最大の要因になっている。その意味では、優秀な人材を集め、育て、活躍させるという「人件費」こそが研究の質を左右するはずである。
 また、単に人件費か研究費か、という区別はあまり意味がない。研究に必要なソフトウェア開発を外注すれば、「研究費」になり、開発担当者をポスドクやRAとして雇えば「人件費」になる。社会調査を外部委託すれば「研究費」になり、RAやポスドクを使えば「人件費」となる。
 第二に、若手研究者の「生活支援」という言葉は問題だ。若手研究者は、研究の最前線を担っているのであって、決して半人前なのではない。彼らは、「研究者」の重要な一員なのである。研究者になる人は、所得がなくてもいい、という考え方が背景にあるのかもしれない。その場合には、研究者になれる人は、所得がなくても研究が続けられる豊かな家庭に育った人か、他に選択肢がない民間企業ではやっていけないタイプの人に限られてしまう。それでは、研究者の人材はずいぶん限られてしまう。本当は研究者に向いていたけれど、経済的理由で大学院進学をあきらめた人がいたとすれば、それは社会全体の損失ではないだろうか。大学院で訓練を積んだ人が民間企業で勤務できるようにするためには、大学院の教育内容を変えることも必要かもしれないが、民間企業でも十分やっていけるようなタイプの人が大学院で学ぶ必要もある。そういうタイプの人の場合には、大学院進学を選ぶかどうかには、経済的インセンティブがかなり重要になってくる。研究者という極めて不確実性の高い職業に優秀な人がチャレンジするような仕組みを作っておかないと、日本の研究水準の高まりを期待することはできないのではないか。

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コメント

初めまして、いつも拝見しています。

人件費をまるで汚いもののように扱う感覚は、私の居る国際協力の業界でも、よく聞きます。
NGOだから霞を食って生きていると思われたり、寄付金は一円もその団体の人件費に使わずすべて発展途上国の人に届けるのが正当というような感覚で語る人が多く、正直寄付金や助成金をほとんど職員の人件費として使うのならともかくとして、インフラ整備以外のNGOをマネージメントしていて、一番かかるのはやっぱり人手で、NGOにとってある意味それが自分たちの強みの源泉とも言える大事なものです。
寄付したらとにかく目に見える学校を建設したり、井戸を掘ったりせよと、トレーニングや講座の実施の人件費よりも箱物ばかりが重視されるのは、いったいどうしてなんだろうと非常に不思議です。
でもそんな人も資産家ではなくて、民間企業で立派に働いてお給料をいただいているはずの人なんですが…。

投稿: つっきー | 2009年11月27日 (金) 09時49分

コメントありがとうございます。資本設備が不足していた時代の発想から抜けきれないのだと思います。「コンクリートからヒトへ」というのは、公共事業から手当へという意味ではなく、政府や公共サービスの中身の変化を言うのだと思います。

投稿: 大竹 | 2009年11月27日 (金) 10時41分

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大竹先生が「人件費は研究費でないのか?」と事業仕訳での若手研究者の人件費の扱いを批判をされている。 [続きを読む]

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