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2009年11月17日 (火)

事業仕分けの行動経済学

 事業仕分けで、予算を減額されたり、事業が中止に追い込まれた側の人たちは、事業仕分けに対して非常に悪い印象をもったと思う。もともと問題のあるプロジェクトもあったことは事実だが、簡単に無駄かどうか評価できないタイプの事業もあった。簡単に評価できないタイプの事業まで、「無駄だ」という理由で削減されると、削減された方は怒るだろう。

 人件費カットが本当の目的なのに、成果主義賃金を導入して、成果が悪いから賃金引き下げ、といわれるのと同じだ。全員一律賃金カットという部分と成果に基づく部分を明確にしておけば、カットされる側の気持ちがずいぶん違う。

 行動経済学でよく知られている人間の特性の一つに、現状維持バイアスというものがある。現状から少し良くなるときの満足度の上昇より、少し悪化するときの満足度の下落の方がずっと大きいという特性だ。だから、誰しも現状維持を望む。この特性をうまく利用すれば、人々の反感を減らすことができる可能性がある。

 例えば、次の手法だ。最初に、「財政上の理由で、すべてのプロジェクトの予算を一律に2割カットする」と宣言する。この時、人々は当然反対するだろうが、全員一律で、そこには評価が入っていないことから、「仕方がない」とあきらめる人も多いだろう。そうすると、人々の「現状」は、最初のところから2割カットというところまで、下がることになる。この下がった「現状」をベースとして事業仕分けで評価をつけるのだ。無駄が多いと判断されればより大きなカットに、無駄かどうかは簡単には判断できないものは2割カットという「現状維持」に、明確に評価が高いか政治的に重要だと判断されたものは「1割カット」や「カットなし」という「現状」からのアップという判断を出せばいい。

 この手法なら、2割カットの事業は評価が悪かったのではなく、財政上の理由でカットされたことが明確になる。現在のやり方は、予算がカットされたものは、「無駄」があったという評価を受けたことと同じになってしまう。それは人々に大きな不満をもたらすだろう。

 もう一つ行動経済学的なバイアスで気になったことは、人々の判断は「目立つ」ものに大きく左右されるということだ。仕分け対象になっている事業には一つの事業の中にも様々なプロジェクトが含まれている。すぐに成果が出ないものやすぐに成果の出るものもあるだろう。無駄だという言う方は、すぐに成果が出ないものや、ほんのわずかでも「無駄」だと思われる事象があるものを取り上げる。全体の中でそれがどの程度重要かは別にして、それを大きく取り上げると、全部「無駄だらけ」のような印象を人々に与えることに成功する。逆に言えば、抗弁する側も、「目立った成果」をアピールすることが重要だ。

 世界トップ拠点の仕分けの際に、仕分けする側が、「夢や希望ではなく、国民にどんなメリットがあるのか」という質問をした。この時の回答は、「ダークマターの発見・・・」だった。免疫学の拠点も含まれているのだから「花粉症の治療法が見つかる可能性がある」と答えることもできただろうし、材料系の拠点を念頭において「環境問題を解決する新規材料が開発できるかもしれない」と答えておけば、「目立つ成果の可能性」という点ではもっとアピールできただろう。しかし、そういう瞬間的なやりとりで、結果が大きく変わってしまうことはとても危険だと思う。

 どれも重要な事業ばかりであって、違うものを比較していくというのはとても難しい仕事だ。科学研究でさえ、違う分野どうしで、「どちらの研究がより重要か」、なんて簡単には判断できない。それでも、お金を配分する際には、それを決めなければならない。政治的な判断は最終的には必要だ。カットされる側が「仕方ない」と思わせるような工夫が必要だろう。

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コメント

>少し悪化するときの満足度の上昇の方がずっと大きい

満足度の*下落*の方がずっと大きい

でしょうか...

投稿: | 2009年11月17日 (火) 12時45分

ご指摘ありがとうございます。そのとおりです。修正しました。

投稿: 大竹 | 2009年11月17日 (火) 13時21分

厚生労働省のように、いわゆる「義務的経費」が大量に入っている省庁の場合はうまくいかないと思われます。
高齢者向けの年金や、国債の償還費を一律2割カットすることは簡単ではないですが、それが生き残り政策的経費だけをカットするとなると、政治家の立場でも官僚の立場でも政策を展開するうまみがなくなって詰まらないことおびただしいと思われますが、如何でしょうか。
あ、それとも、政策的経費だけ、という意味で「プロジェクト」とお書きなのでしょうか。

投稿: Geo80k | 2009年11月17日 (火) 21時18分

企業の研究開発費について考えているものです。
この方法、研究開発費の削減にも使えると考えて、ウェブに書かせていただきました。

といっても、私の仕事は、研究開発費の「削減」ではなく、「獲得」なのですが・・・。

投稿: ケビン67 | 2009年11月17日 (火) 22時39分

アンカリング効果ですね。

投稿: | 2009年11月18日 (水) 23時20分

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昨日に続きまして事業仕分けについて論じてみます。これについて、阪大の大竹先生が次のようなことをおっしゃっています。 どれも重要な事業ばかりであって、違うものを比較していくというのはとても難しい仕事だ。科学研究でさえ、違う分野どうしで、「どちらの研究がより... [続きを読む]

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