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2010年2月 7日 (日)

脳文化人

脳プロのシンポジウムで、「脳文化人」とか「芸脳人」という言葉があるのを知った。脳文化人は、脳科学の中身を一般に知らせるという役割をもつ一方で、間違ったことを伝えていることも多く、科学者たちが困っているということだ。「ラクガキ帳」というブログで紹介されているやりとりは、神経科学を経済学と置き換えてもなりたつ。つまり、私たち経済学者も同じ悩みを抱えているのだ。

どうして、こうなるのだろうか。実はこの問題は、「ランズバーグ先生の型破りな知恵」という本の最初に議論されている話と本質的には似ている(ただし、本で議論されている話の内容はここでは説明しない)。コミュニケーション能力が高い人がメディアで科学的な成果の最先端をわかりやすく話し、最先端の研究者が彼らに協力するというある種の分業がなりたっていれば、問題は起こらない。しかし、メディアの要請に応じて、脳文化人が科学的成果を歪曲して伝えたり、根拠がないことを話しだすと、脳文化人と神経科学者との間の分業はうまく成り立たなくなる。メディアに出る人は、怪しい脳文化人だけになり、脳文化人が怪しいことを言うから彼らと一緒にされたくないと思う「まとも」な神経科学者は、ますますメディアに出なくなる。悪い均衡だ。

この悪い均衡から脱出するためには、「まとも」な神経科学者にメディアに出てもらったり、一般向けの解説書を書いてもらうことが必要だ。でも、そのインセンティブがないからこそ、「まとも」な神経科学者はメディアにでない。悪循環を解決するためには、「まとも」な神経科学者に研究成果を一般向けに説明させることを義務付けるか、そうした活動を評価するしかない。これは、一人ひとりの研究者にとっては、コスト以外のなにものでもないが、そのコストを払わない限り、社会における脳科学の正しい理解といういわば公共財の供給がなされない。そうしないと結局は、脳科学が社会から信頼されなくなってしまい、研究費の獲得もできなくなってしまう可能性がある。一流の脳科学者である藤田一郎先生が「脳ブームの迷信 (家族で読める family book series) (家族で読めるfamily book series―たちまちわかる最新時事解説)」という本を書かれたり、坂井克之先生が「脳科学の真実--脳研究者は何を考えているか 」(河出ブックス)を書かれたのは、そういう危機感であり、彼らが支払ったコストなのだと思う。脳科学が、狭い意味の生物学や医学だけだった時代なら問題にならなかったことが、その発展のおかげで、脳科学が総合的人間科学になってきたことが、経済学と似た問題が脳科学でも発生してきた原因のように思う。でも、その問題への対応は脳科学の方が経済学よりもずっと早いような気がする。

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コメント

僕は理工学(素材系)の者です。どの分野にもこの原理があてはまりそうですね。

きちっとした内容の専門書の値段はベラボウに高い。だから、何か新しいことを知りたい場合、値段の安い入門的な本を買います。

医学の分野も同様でしょうね。

投稿: 絵スプ理 | 2010年2月 7日 (日) 22時05分

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» NO文化人 [国家鮟鱇]
我ながらくだらないダジャレ。 ⇒脳文化人: 大竹文雄のブログ これはこれでその通りだと思うんですけどね。しかし、「まとも」な神経科学者ができることは、その分野に限られるでしょう。でも、近頃の脳文化人は、他分野での活躍が著しいですからね。 「脳文化人」という「... [続きを読む]

受信: 2010年2月 9日 (火) 21時26分

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「似非」しか世の中になければ、人々は「世の中にはそれしかないんだ」と信じるようになるもの。けれども、世の中を見渡すと「本物」は皆無に近いわけです。これでは、結末がどうな... [続きを読む]

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