« 堂目卓生教授による書評が読売新聞に掲載 | トップページ | 頭のでき-決めるのは遺伝か、環境か »

2010年6月19日 (土)

『その数学が戦略を決める』が文春文庫に

イアン・エアーズの『その数学が戦略を決める』が翻訳されて出版されたときに、このブログで紹介させてもらった。この度、この本が文庫本として発売されたようだ。私はブログで紹介したことをきっかけに、『週刊現代』にこの本の書評を書かせてもらった。文庫本が刊行されたというタイミングで、その時の書評をアップさせてもらう。


書評 イアン・エアーズ著『その数学が戦略を決める』 

                       大竹文雄       

 レッドソックスが岡島秀樹投手を獲得したのは、投手の能力を測る指標に三振四球比率を用いたことが理由だ。2月3日に放映されたNHKスペシャルで紹介されていた。投手の能力を測るのには防御率が用いられることが多かったが、三振四球比率の方が優れていることが統計的な分析で明らかにされたのだという。アメリカの大リーグでは、野球のデータを統計的に解析し、それをチーム編成に積極的に利用しているそうだ。

 実は、これはアメリカ社会で統計分析が日常的にビジネスに使われていて、それが伝統的な「専門家」の判断よりも優れていることのほんの一例にすぎないことが、本書を読めばよく分かる。「その数学が戦略を決める」というタイトルからは想像しにくいが、本書はアメリカの企業も政府も大量のデータを統計的に処理してビジネスや政策決定に役立てていることを様々な実例で紹介したものだ。

 例えば、プリンストン大学の経済学者であるアッシェンフェルター教授は、ブドウが採れた年の気象情報からワインの値段を予測することに成功している。当初は、ワインの専門家から猛反発されたというが、その予測は専門家よりも優れているそうだ。

 失業対策、医療といった公的政策から出会い系サイトでの紹介方法、銀行の貸出、本の題名の決め方、ウェブのデザインに至るまで、統計的な分析手法がアメリカで実際に駆使されていることが本書で示されている。計量経済学がここまで実際に使われていることに、経済学者である私自身が驚いた。同時に、膨大なデータを使った統計的手法による決定の方が、今までの「専門家」の決定よりも優れていることが多いという。ところが、多くの場合、優れているはずの統計的手法を導入することに一番反対するのは、伝統的な「専門家」だという。

 確かに、データと統計分析家に仕事が奪われてしまう「専門家」の気持ちは分かる。しかし、経営者や政策決定者にとっては、最も優れたビジネス戦略や政策を採用することの方が重要なはずだ。日本では、まだまだこうした手法が使われていない。逆に言えば、大きなビジネスチャンスがあるということだ。本書は、日本のビジネスマンや政府の政策担当者の必読書である。

(『週刊現代』2008年3月8日号、p119、掲載)

|

« 堂目卓生教授による書評が読売新聞に掲載 | トップページ | 頭のでき-決めるのは遺伝か、環境か »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/126445/48668886

この記事へのトラックバック一覧です: 『その数学が戦略を決める』が文春文庫に:

« 堂目卓生教授による書評が読売新聞に掲載 | トップページ | 頭のでき-決めるのは遺伝か、環境か »