2008年7月 2日 (水)

経済学で談合の仕組みを暴く

こんなに使える経済学」(ちくま新書)で、「談合と大相撲の共通点とは」という節を青柳教授と共著で書いてくれた石井利江子さん(社会経済研究所特任研究員)の日本の公共事業の談合に関する論文が、International Journal of Industrial Organizationに掲載されることになったそうだ。この論文は、那覇市の公共工事では、業者の間の貸し借りという形で談合が行われていたことを計量経済学的に明らかにしたものだ。彼女は、茨木市の公共工事で談合が行われた可能性が高いこともこの論文で明らかにしている。彼女は、この茨木市の談合を経済学的に研究した論文で、第10回社研・森口賞を受賞した。今年も社研・森口賞の懸賞論文を募集するので、是非、大学院生の皆さんは応募してほしい。

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2008年6月26日 (木)

コーポレートガバナンスの改善が格差対策

ハーバード大学のIan Dew-Becker氏とノースウエスタン大学のRobert J. Gordon教授が、アメリカの格差対策についてVox blog に興味深い論説を書いている。上位10%の所得が上昇した理由は、スーパースター現象、SBTC(技能偏向的技術進歩、要するに高学歴者をより必要とする技術革新)、社長の報酬の上昇という3つ。最初の二つは、市場メカニズムだから、対応策は税による所得再分配を強化することが対策である。しかし、最後の社長の報酬の上昇については、必ずしも市場メカニズムで引き起こされているわけではないので、情報公開とコーポレートガバナンスの改善が有効で、平等をもらたし企業価値も高めるという意味で一石二鳥ということ。

日本では、社長の給料が上がるというよりも、企業の内部留保が増えているのが特徴だ。この点についての対策は、ゴードン教授らの提言と同じで、企業の情報公開とM&Aの活発化を含めたコーポレートガバナンスの改善であろう。それが、労働者や株主への分配を高めることになる。

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2008年6月25日 (水)

飢饉の長期的影響

先週、ソウルで開かれた第19回 NBER EASE Meeting に参加して論文を報告してきました。私が報告したのは、人口高齢化が義務教育への公的支出に与える影響に関する論文です。この論文では、少子化は一人あたり教育費を引き上げる一方で、高齢者比率の上昇が一人当たり教育費を引き上げること、現在は全者の影響が大きいが近い将来その効果が逆転し、高齢化により生徒一人あたり教育費が低下する可能性が高いことを実証的に示しました。

報告された論文の中で興味深かったのは、Douglas Almond, Lena Edlund, Hongbin Li, Junsen Zhangの4氏による "Long-Term Effects of Early-Life Development: Evidence from the 1959-1961 China Famine,"という論文です。中国の飢饉の年に生まれた子供たちのその後の社会経済状況を分析したものです。飢饉の年に生まれた子供は、その前後の年に生まれた子供よりも、社会経済状況が悪いこと、その年に生まれた子供が産んだ子供の男女比は女性の方が高いこと、が非常に説得的に示されています。胎児における栄養状態が、長期的な影響をもつことを示す重要な研究だと思いました。

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2008年6月 2日 (月)

自信過剰論文のポスター

東北大学で日本経済学会春季大会が開催されました。「自信過剰が男性を競争させる」という論文をポスターセッションで、大学院生の水谷徳子さんが報告しました(水谷徳子・奥平寛子・木成勇介・大竹文雄の共著)。ご来場いただき、説明を聞いてくださった方々、ありがとうございました。その時のポスター(「tohoku08poster.pdf」をダウンロード)です。

水谷さん

Tohoku_mizutani_3

共著者全員

Tohoku_all_3

 

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2008年5月23日 (金)

所得階級別物価上昇率

 5月21日のエントリーで、アメリカにおける所得階級別物価上昇率の研究を紹介した。その際、永濱利廣氏の比較的短期間における日本の分析を紹介して、「もっと長期の研究があれば」、と書いた。一橋大学経済研究所の北村行伸教授が分析していることを、日々一考ブログから知った。この論文(pdf)だ。
 北村教授の論文によれば、1986年から1994年くらいまでは、日本でもアメリカと同様、低所得者が購入する商品の物価上昇よりも高所得者が購入する商品の物価上昇率が高かった(正確に言うと北村論文では、支出階級別。ただし、ここでは単純化のため所得階級と同じように議論する)。しかし、1995年から99年にかけては、その関係が逆転し、高所得者が購入する商品の物価上昇率の方が、低所得者のそれよりも低くなっている。ところが、2000年から2005年にかけては、所得階級と明確な関連はなくなっている。強いていえば、中位所得層の物価上昇率が相対的に高かったと言える。年齢階級別の分析もある。こちらは、所得階級別よりも時期別の傾向の違いが大きい。
 いずれにせよ、日本では低所得層が購入する商品の価格が過去10年ほどは、それほど下がっていないということには変わりがない。

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2008年5月21日 (水)

実質所得格差

レヴィット教授が、Freakonomicsのブログで、興味深い論文を紹介している。アメリカの所得格差拡大は実質的にはそれほど大きくなかった、と主張しているシカゴ大学のChristian Broda教授とJohn Romalis教授の論文である。

 実質所得を計測する際、普通は消費者物価指数を使う。つまり、平均的な消費者が購入する商品の構成と量を固定しておいて、その商品を違う年に購入するといくらかかるようになるか、というのが消費者物価指数だ。

 しかし、購入する商品の構成は、人によって異なるので、本来なら、個人ごとに物価指数というのは、異なってくるはずだ。

 そこで、所得階層別に商品の購入パターンが異なることを前提に、所得階級別消費者物価指数を作ってみて、その消費者物価指数で所得階級別の実質所得を計算し、所得格差の変化を考えようというのが、論文の趣旨だ。その結果、アメリカでは、低所得者が購入する商品の価格は大きく下落したのに、高所得者が購入する商品の価格はそれほど下落していないことが示される。そうすると、低所得者の実質所得は大きく上昇したのに、高所得者の実質所得はそれほど上昇していないことになる。それで、見かけの所得格差の拡大ほどは、高所得者と低所得者の生活水準の格差は拡大していない、ということになる。低所得層の物価指数が下落したのは、グローバル化とウォル・マートのおかげだという。

 日本ではどうだろうか。第一生命研究所の永濱利廣氏が「低所得者を苦しめる物価の二極化」(短いバージョンはこちら)で似たような分析をしている。この結果は、アメリカの研究とは逆に、低所得層の消費者物価指数の方が、高所得層の物価指数よりも上昇していることを示している。もう少し長期の分析も知りたいところだ。

 この分析が正しければ、日本ではみかけの所得格差以上に、生活水準の格差が拡大していることになる。日本の消費者がグローバル化の恩恵を十分に得ていないことが、その原因だ。格差対策に、規制強化や反グローバル化を唱える人が多いが、逆に、そうした政策は、実質的な所得格差拡大をもたらすことになるのではないか。

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2008年5月20日 (火)

「小さく産んで・・・」は本当か?

日本では、「小さく産んで大きく育てる」ということがよく言われる。しかし、最近の多くの研究は、出生時の体重が、子供の将来の健康や社会的経済的地位に大きな影響を与えることを明らかにしている。たとえば、この研究この研究だ。Currie教授のこの論文にも健康を通じて格差が継承されることが示されている。それなのに、日本の平均出生体重は低下傾向が続いているらしい。日本人だけは、出生時の体重が将来に影響しない、という研究でもあるのだろうか。そうでないとすれば、将来の日本人の人的資産に影響を与える問題になるかもしれない。

 

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2008年5月18日 (日)

予測市場

予測市場の有効性を示し、その規制緩和を求める論文を、3人のノーベル賞経済学者を含むアメリカの有力な経済学者のグループが、SCIENCEに掲載した(FreaknomicsのWolfers教授の記事より)。日経サイエンス6月号にも、予測市場に関する記事が掲載されていて、世論調査よりもパフォーマンスがいいことが紹介されている。世論調査で、人々が本当のことを答えてくれているかどうかは誰にも分らない。予測市場なら自分の予想と異なる証券を買うことは損になるので、価格には人々の正直な予想が反映されやすくなる。日本でも予測市場の設立を検討してみてはどうだろうか。

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2008年5月 8日 (木)

格差とやる気

 バスケットボールやサッカーのプロ選手たちは、チーム内での年俸が相対的に低いと、年俸の絶対額が高くても、パフォーマンスが悪くなるという研究が発表された。スイスのFrey教授らの研究だ(Stumbling and Mumbling 経由)。この研究の意味することは、年俸格差の付け方が、チームの成績に影響するということだ。たとえば、誰か一人のスーパースターの年俸を上げすぎると、ほとんどの選手が平均以下の年俸になってしまう。そうすると、チーム全体の成績は下がってしまうのだ。
 日本のプロ野球のデータでも似たようなことは検証できるはずだ。誰か分析してはどうだろうか?
 高額年俸を払っているのに、どうも成績がぱっとしない球団の経営陣は必読かもしれない。

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2008年5月 5日 (月)

なぜ残る男女間格差

5月5日の日本経済新聞『経済教室』に、「なぜ残る男女間格差」という研究紹介記事を書きました。男女間賃金格差に関する最近の実証研究と競争選好に関する男女差の経済実験を紹介しています。参考文献は、日経ネットPLUSで紹介しています。

競争選好に関する男女差の議論で、次のような誤解が多いのです。「女性でも男性よりも競争が好きな人が多い」、という反論です。そのとおりですが、ポイントは次の点です。どちらが競争好きな人が多いのか、同じ能力の男女を比べた場合、どちらが競争にチャレンジすることが多いのか、ということです。

能力が高い人は、特に競争が好きでなくても、競争にチャレンジしても勝つ可能性が高いので、結果的に能力が低い人よりも競争に挑戦するでしょう。同じ程度に優秀な人がいて、片方は昇進競争に挑戦して、もう片方は挑戦しないとき、挑戦しなかった人は決して昇進することができないし、その能力を十分には活かすことができない、ということです。

ただし、この分野の本格的な研究は、まだ始まったばかりですから、わかっていないことが非常に多いと思います。

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2008年2月15日 (金)

もしカシ族の女性テニスプレーヤーがいたなら

VoxブログのPaserman氏の論文によれば、”Female tennis players play more conservatively and commit more unforced errors when playing critical points.”ということだ。彼は、テニスのグランドスラムの試合のデータを分析して、試合を決める重要な局面別に、ポイントの決まり方を統計的に分析した。その結果、女性テニス選手は、ここぞというときにミスをすることが多いし、消極的な戦略を取るという。男性プレーヤーにはそれはみられないというのだ。しかも、この違いは、体力差や技術レベルの差では説明できないことを確認している。

実は、男性の方が女性よりも、トーナメントのような競争が好きで、競争にさらされた方が実力が発揮できるという経済学の研究が最近、注目されている。これが男性と女性の本当の意味での差なのか、それとも教育や家庭の育て方といった文化が原因なのかが論点だ。

そこで、注目すべき研究は、Gneezy教授らの論文だ。彼らは、マサイ族とカシ族で、競争的な報酬体系への好みを調べる経済実験を行った。マサイ族は家父長的社会でカシ族は母系社会なのだそうだ。結果は、マサイ族では、男性の方が競争的報酬体系を好むのに対して、カシ族では、女性の方が競争的報酬体系を好むということだ(もう少し詳しい説明は、Lafsky氏のこの記事を参照)。

カシ族の女性でプロテニス選手が出現すれば、彼女は勝負強い選手になるのかもしれない。

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2008年2月12日 (火)

賃金規制が死亡率を高める?

CEPRのVoxブログのCarol Propper、 John Van Reenen両氏による"Can pay regulation kill? Evidence from English hospital trusts"は衝撃的だ。看護師の賃金規制によって、都市部の看護師の人手不足を招き、派遣や非常勤看護師が増加した結果、患者の死亡率が増加しているという研究結果だ。日本でも同じようなことが起きていないのだろうか。

製造業でも、正社員の解雇規制強いので、非正規社員や派遣社員が増えて、製品の品質 が低下してしまうということが起きるというのも、過小供給と過小需要という違いがあるが、正社員の数が規制によって過小になっているという意味では基本的には同じ理屈だ。

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2008年1月17日 (木)

犯罪と失業

久留米大学の松尾匡さんの犯罪の九割は失業率で説明がつくという文章が注目を集めているようだ。彼が指導した学部3年生の論文を紹介されている。私の『経済学的思考のセンス』も取り上げていただいている。

私自身は、少年犯罪についての実証研究をしたことがあるが、犯罪率全体についてはきちんとした研究はしていない。失業率と犯罪率に関するアカデミックな論文は、数多くあるが、日本の研究は少ない。数少ない研究の中に、社会学者の津島昌寛氏が『日本労働研究雑誌』に発表した「失業・犯罪・年齢」という論文がある。9割かどうかは別にして、海外の研究結果をみても、失業率と犯罪率が関係するのは、間違いないだろう。

ただ、津島氏の研究にしても、時系列相関が高いので、計量経済学的にはまだまだ検討の余地はある。こういう分野についても実証的な研究がどんどん蓄積されていけば、印象論で議論する人が減ってくるはずだ。

先日、日経の経済教室で紹介したヘックマン教授らの研究が日本でもなりたっているとすれば、現在の失業率だけではなく、その年齢層が幼少期だった頃の親の世代の失業率も犯罪率に影響する可能性がある。

昔は、日本の失業率があまり変動しなかったので、分析に用いてもはっきりした実証結果が出ないことが多かった。しかし、幸か不幸か、最近は大きく変動するようになってきたので、分析結果は明確に出やすくなってきた。アカデミックな研究が待ち望まれる。

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2008年1月15日 (火)

労働法学における「暗黙の前提」

神戸大学教授の大内伸哉氏が「労働法学における「暗黙の前提」-法と経済学の協同の模索・可能性・限界-」という論文を『季刊 労働法』(219号, 2007.12)に書いている。

法学と経済学は、似たような言葉を使うことがあるが、その意味することが全く違うこともある。前提としている状況が違うことも多い。それをわからずに互いの書物や論文を読むと、見当違いの批判合戦にもなりかねない。大内氏のこの論文には、契約・市場、効率・正義、所得分配など基本的な言葉が、二つの学問でどのようにつかわれていて、どのように誤解されやすいかを丁寧に議論している。彼の議論は、基本的な話に終わらず、不完備契約論の話題にまでわたっている。

法と経済学に関心のある経済学研究者だけではなく、経済学ぎらいの法学者も是非ご一読いただきたい。

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2005年8月 2日 (火)

危険な商売・危険な研究?

Paul Gertler, Manisha Shah, Stefano M. Bertozzi
Risky Business: The Market for Unprotected Commercial Sex
Journal of Political Economy, 2005, vol. 113, no. 3

メキシコの売春婦を調査して、
売春婦にとってHIVの感染の危険性が高い
避妊具を使わないセックスの割増料金を推定。
避妊具を使わない場合には23%の割増料金が発生。
売春婦が非常に魅力的であれば、

その割増率は46%になるという。

確かに命をかけた商売。
命をかけた研究調査でもある、と研究者としては思う。

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